厚労科研研究班の活動概要

日本医療薬学会を母体とする厚労科研研究班の活動概要                  (平成25年度~令和2年度)

帝京大学薬学部 安原眞人

 医療の高度化・複雑化や少子高齢社会の進展等に伴い医療提供体制の再構築が求められる中で、チーム医療と地域医療を推進する上で薬剤師が担うべき役割が改めて問われることとなりました。医療薬学会では、平成25年から厚生労働科学研究費補助金を受けた研究班を組織し、通算8年間にわたり3つの研究課題について検討を重ねてきました。

 

 平成25年度には、「薬剤師が担うチーム医療と地域医療の調査とアウトカムの評価研究」研究班が医療薬学会を中心に日本病院薬剤師会と日本薬剤師会との連携により組織され、2つの分担研究班が立ち上がりました。

 吉山友二教授(北里大学)の分担研究班では、かかりつけ薬局機能をもった在宅医療提供薬局を推進するための新たな基準として「薬局の求められる機能とあるべき姿」をまとめ、平成26年1月に医療薬学会ホームページで公開しました。佐々木均教授(長崎大学病院)の分担研究班では、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の実践方法を3年間にわたり検討し、導入マニュアルとして医療薬学会のホームページで公開しました。

 

 次いで、PBPMの手法を具体的にがん治療における薬局と病院の連携に適応しそのアウトカムを評価するために、平成28年度から2年間、「薬剤師が担う医療機関と薬局間の連携手法の検討とアウトカムの評価研究」研究班が、医療薬学会と日本臨床腫瘍薬学会、日本病院薬剤師会、日本薬剤師会の協力で組織されました。S-1とカペシタビンの2種類の経口抗がん薬の外来薬物治療管理について、PBPMに基づく病院と薬局の連携モデルを構築し、本モデルが患者の安全や医師の負担軽減に役立つことを示しました。また、医療機関と薬局の薬剤師の相互理解を深め、相互の連携を担う薬剤師の養成に向けて、病院におけるがん患者の診断・医療・指導業務と薬局における業務課題を解説した2枚のDVDを作成し、各都道府県の病院薬剤師会と薬剤師会に配布しました。

 

 この研究は、さらに平成30年度から令和2年度までの3年間、「かかりつけ薬剤師・薬局の多機関・多職種との連携に関する調査研究」として展開され、PBPMによる薬局と医療機関の連携システムが、がん患者の診療を行う医療機関の近隣の薬局に限らず、地域で様々な医療機関からの処方箋を受けている薬局でも活用できることを示しました。PBPMによる望ましい連携のモデルケースをドラマ仕立てで示すDVDを作成し、各都道府県の薬剤師会、病院薬剤師会と全国の薬科大学・薬学部に配布しました。また、薬局の情報共有に関するアンケート調査では、調剤に必要とする情報を薬剤師が患者本人から聞き出している場合が多数を占め、薬学的管理に必要な患者情報を医療機関と共有できるシステムの必要性が示されました。長谷川洋一教授(名城大学)の分担研究班は、薬剤師の需給動向を調査し、長期的には供給が需要を上回る可能性を示しました。赤池昭紀教授(京都大学)の分担研究班は、登録販売者について、資質向上の意義、環境の変化、求められる専門性、制度における課題、資質向上のあり方、の5項目からなる提言をとりまとめました。亀井美和子教授(帝京平成大学)の分担研究班は、オンライン診療における緊急避妊薬を調剤する薬剤師が受けるべき研修プログラムを整備し、Web研修にも利用できる動画を作成しました。

 

 これらの研究成果は、診療報酬改定における新たな加算項目の設定や、薬機法改正に伴う機能別薬局の要件設定等にも反映されるなど、チーム医療や地域医療に係わる薬剤師を巡る厚生行政に活用されることとなりました。平成25年から8年間にわたり、医療薬学会を母体とする3つの研究班にご協力いただいた多くの研究協力者の先生方に改めてお礼申し上げます。

 

 

 

<成果報告シンポジウム>